ピアノの先生

私が師事した、ある音大の先生。

一見不愛想な、にこりともしない先生です。

 

レッスンにいくと

「こんにちは。」とだけ言って

ピアノに向かい、一度私が弾きます。

すると黙って譜面を指さし

「ここ、ゆっくり」

とだけ言います。

 

たったの一言です。

 

シンプルだから

そして一度しか言わないから

すっと頭に入り、その通りに弾きます。

そして弾いた瞬間

!!!!

と自分で感じるのです。

たった1小節、ゆっくりしただけなのに

まるで違う曲になります。

すると、そこから先の音も変わります。

ピアニストにでもなったかのような気分で

気持ちよく弾けるのです。

 

弾き終わると私の顔を見て、間をあけて

「良くなったね」

と、一言。

たったそれだけです。

 

大げさに褒める必要がないのです。

だって、本人が一番満足しているから。

それを先生は確認し、私の反応を待って

一言だけ伝えます。

 

私の「良くなった!」と

先生の「良くなったね」

が、見事に一致するから、もう先生にメロメロです。

 

先生がきれいとか若いとか美しいとか優しいとか

おやつを出してくれるとか、

そんなことはどうでもいいのです。

それよりも、人間性と指導。

そこに子供は恋い焦がれるようになります。

 

次は

「ここ、強く」

と。

 

そしてまた弾く。

同じことが起きる。

 

30分のレッスン、弾くのは3回だけ。

それで、私はとてもとても上達したように感じ、

その後の1週間の練習が楽しく気持ちよくできます。

 

こうしてピアノって上達していくのです。

 

この先生が発した言葉は

「こんにちは」

「ここ、ゆっくり」

「ここ、つよく」

「良くなったわね」

「さようなら」

 

これだけです。

にっこりすることもないし、淡々とした先生でした。

だけど大尊敬する、私の指導の師匠でもあります。

 

先生や大人って

同じことを3回繰り返す傾向にあります。

言いたいことは山ほどあるのでしょうけど

しゃべればしゃべるほど、

相手に伝わりませんよ。

 

 

だまる

待つ

 

指導の鉄則。

 

べらべらしゃべる指導者は

愛想はいいけど、

指導はうまくないと思う。

 

 

私は小中高と、良い先生にめぐまれてきたと

すごく思います。